臓器移植

脳神経外科は、救急医療に深く関与しているため、脳死患者と向き合う機会が大変多くあります。このページでは、臓器移植、脳死に関する話題について取り上げて行きたいと思っています。

私は、2007年2月13日に愛媛県立新居浜病院に於いて、愛媛県初の「脳死移植」を経験いたしました。それまでにも数例の「心停止からの腎移植」には関わっておりました。当時の新聞記事の掲載を愛媛新聞社のご好意にて許可していただきましたので、ご紹介いたします。

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脳死についての私見

脳死の問題は,マスコミでも取り上げられ様々な議論がなされておりますが一般の方が脳死という問題を具体的に考え る機会は限られています。実際,脳死が問題となるのは救命救急センターの様な比較的高度な医療機関に限られていますし,そのことが医療人の中でさえ理解が 十分であるとは言いがたい大きな理由となっているように思います。

私の施設に於いても脳死になる患者さんはしばしばおられますが,その脳死となった患者さんの様子を毎日見ておられる家族の方々は医者が想像する以上に脳死と言うものを理解しておられるようです。

物事は実際に体験してみないと理解しにくいものですし,経験のない事に関して,また経験のない人との議論はうまくかみあわず困難なものです。

脳死と言う問題は今後ますます出てくると思われます。一般の方が身近に見る機会も増えてくると思います。また,脳 死は今日のように議論されるまでもなく昔から脳神経外科の領域に於いては日常茶飯事に起こっていたことです。それがどうしてさかんに問題とされるように なったのかと申しますと,臓器移植と言う問題との絡みがあるからです。そして脳神経外科医にとっては,臓器移植ということと脳死判定は全くつながりのない ことでした。しかし,最近は臓器移植に関しても無関心ではいられません。インフォームド・コンセントと言うことがあるからです。

私は実際には,もうこの患者さんは助からないと判断した場合には,そのことを時間をかけて家族の方に説明した上で次の3つの選択をしていただくことにしています。この際脳死の判定はまだしていません。

  1. 現在の点滴などの積極的な治療をそのまま継続する。
  2. 積極的な治療は行わないで自然にまかせる。
  3. 心臓死の後に腎移植,角膜移植を行うための手続きをする。

もし、「臓器提供意思表示カード」を患者さんが持たれていた場合には脳死からの臓器提供についても説明を要するでしょう。

この3番目の事は,主治医としては言いにくいことかもしれませんが,インフォームド・コンセントという観点からす るとどうしても言わなくてはなりません。隠してしまうとすべてをインフォームしたことにはならないからです。また,もしかすると患者さんは元気な時に腎バ ンクやアイバンクに登録しているかもしれません。しかし,そのようなことは,家族の方からは絶対に言い出せないものです。以前に私が実際にそのことを教え られたと言う経験があります。移植の話を先生に言い出していただいて救われましたと家族の方から言われたことがありました。移植をすることによって患者さ んの体の一部が生き続けていると考えることにより気持ちが少しでも安まるとのことでした。

一方で,家族の方から脳死の判定を希望されることもあります。その時には,厳密な脳死判定を施行した後で上記の3つの選択をしていただくことになります。

もし、「臓器提供意思表示カード」を所持しておられた場合には移植コーディネーターの方に来ていただいて詳細な説明をさせていただくことになるでしょう。

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(「Transplant Communication臓器移植の情報サイト」も見ることができます。)

脳死判定をすると言う限りは,主治医としてはなすすべの無い最期に,脳死の判定をした上で客観的に回復の可能性が無いという事を患者さんの家族に理解していただき,上記の3つの選択(「臓器提供意思表示カード」を所持しておられた場合には脳死からの臓器提供の説明)を提示するというところまでが必要であると考えます。逆に臓器提供の話まで出来ないのであれば脳死の判定はする意義が薄い様に思います。これは医師としての使命だろうと考えます。